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犬の精巣腫瘍

犬の精巣腫瘍

犬における精巣腫瘍は去勢をしていない雄犬において2番目に多く遭遇する腫瘍と言われています。
特に生後に陰嚢内に精巣が降りてきていない潜在精巣の犬においては、正常に精巣下降した犬と比べて精巣腫瘍になるリスクが高いと言われています(写真1)。
また、犬の精巣腫瘍は主にセルトリ細胞腫、精上皮腫(セミノーマ)、間質細胞腫と呼ばれる3種類の腫瘍に分類され、それらはほぼ同じ割合で発生し犬の精巣腫瘍のほとんどを占めます(表1)。

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写真1.皮下で腫瘍化した潜在精巣

表1

発生率 潜在精巣 転移 雌性化
セルトリ細胞腫 30% 54% <15% 25〜50%
精上皮腫 30% 34% <15% まれ
間質細胞腫 40% なし 0% 極めてまれ

セルトリ細胞腫

セルトリ細胞腫の犬の30%において高エストロゲン血症に伴う雌性化した乳房や左右対称性の脱毛などが特徴的な身体検査所見として認められます。
また、血液検査において好中球減少、血小板減少、再生不良性貧血などを認める場合もあります。
セルトリ細胞腫は、通常は良性の挙動を示し転移は稀(15%以下)とされていますが、肝臓や肺、リンパ節等へ転移することもあります。

精上皮腫(セミノーマ)

セミノーマは潜在精巣において認められることが多く、セルトリ細胞腫と同様に高エストロゲン血症に伴う症状が認められる場合もあります。
転移は稀ですが、リンパ節や肺への転移することがあります。

間質細胞腫

間質細胞腫の多くは1cm以下の結節性の病変であり臨床的に問題とされていない精巣において偶発的に発見されることが多い腫瘍です。
高エストロゲン血症に伴う症状はセルトリ細胞腫やセミノーマに比べると少なく、転移することは極めて稀です。

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写真2.陰嚢内で腫瘍化した精巣

診断

診断には触診または超音波検査を用いた精巣腫瘤の確認が必要であり、針吸引による細胞診検査によって暫定的に診断が行えますが、精巣腫瘍の確定診断には病理組織学的な評価が必要となります。
一部の症例では雌性化した乳房や左右対称性の脱毛などが特徴的な臨床症状として認められます。
また、外科的な手術の前には、転移の有無や全身状態を確認するための血液検査やレントゲン検査、また場合によってはCT検査を行う必要があります(写真3.a-c)。

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写真3-a.精巣腫瘍の犬の腹部レントゲン検査

写真3-b.超音波検査

写真3-c.CT検査.黄色く囲まれた部分が精巣腫瘤(潜在精巣)

治療

犬の精巣腫瘍の治療は腫瘍の外科的摘出が第一選択となります。精巣腫瘍は転移の可能性が少なく、去勢手術(外科的摘出)によって大半は治癒するとされています。
しかし、稀に転移が認められる症例も存在し、そのような症例は精巣に加えて転移部位の外科的切除も考慮し、追加の放射線治療や化学療法による治療を必要とする場合があります。
また、精巣腫瘍に随伴して再生不良性貧血を呈した場合は輸血等の対症療法以外に有効な治療法はありません。

犬の放射線治療に関しての報告は多くありませんが、セミノーマの転移病巣に対しては放射線治療が有効であると報告されており、積極的に放射線治療を考える必要があります。

犬の精巣腫瘍に対する化学療法の報告も多くはありませんが、医学領域と同様に、シスプラチンやカルボプラチン、ドキソルビシンの抗がん剤が精巣腫瘍に対して効果を示し、化学療法を行った犬の生存期間は5~31カ月以上と報告されています。

予後

予後は良好であり、精巣腫瘍は転移が稀であるため、多くの症例においては外科的に精巣を摘出することが根治的な治療となります。
しかし、転移が認められる症例や再生不良性貧血が深刻な症例における予後に関しては警戒が必要とされます。

主な腫瘍疾患