猫のリンパ腫
猫のリンパ腫
リンパ腫とはリンパ系細胞が骨髄以外のリンパ器官等の組織を原発とする腫瘍性増殖疾患の事をいいます。猫の全腫瘍中の1/3を造血系腫瘍(リンパ系と骨髄系)が占め、さらに、そのうちの50‐90%をリンパ腫が占めており、リンパ腫は猫に最もよくみられる腫瘍のひとつです。
リンパ腫はリンパ節や脾臓のようなリンパ組織から生じますが、体の全ての組織から生じる可能性があります。発生部位によって前縦隔型、消化器型、多中心型、節外型(中枢神経系、腎臓、皮膚、鼻腔、眼)に分類されます。臨床症状は発生部位により異なりますが、元気食欲低下、嘔吐、下痢など様々です。
発生と病因に関しては猫白血病ウイルス(FeLV)が陽性の場合では陰性と比べ約60倍、猫免疫不全ウイルス(FIV)が陽性の場合では約5倍、両方陽性の場合では約80倍発症する危険性があるといわれています。また、受動喫煙に暴露されている猫のリンパ腫発症の危険度は2.4倍で、5年以上の暴露では3.2倍といわれています。
シャムネコは好発品種とされています。
病型
平均年齢 | 発生頻度 | FeLV陽性率 | 症状 | ||
前縦隔型 | 3~5歳 | 20~50% | 75% | 呼吸困難、吐出、嚥下困難 | |
消化器型 | 10~12歳 | 30~50% | 30% | 食欲不振、体重減少、嘔吐、下痢 | |
多中心型 | 1~4歳 | 4~10% | 30% | 末梢のリンパ節が腫れる | |
多中心型 | 中枢神経系 | 5~9歳 | 1~3% | 通常陰性 | 脳に関連した中枢神経系症状、下半身麻痺 |
腎臓 | 7.5歳 | 5% | 25% | 沈うつ、体重減少、多飲多尿、高い割合で中枢神経系を侵す | |
皮膚 | 10~12歳 | 5%以下 | 10%以下 | 強い痒み、脱毛、皮膚の硬化、潰瘍、丘疹など | |
鼻腔 | 9~12歳 | 5%~10% | 通常陰性 | 鼻汁、鼻出血、呼吸困難、顔面変形 |
前縦隔型:胸の中にある前縦隔リンパ節、胸腺が腫れる
消化器型:腸管、腸間膜リンパ節が侵される。小腸に多い
ステージ分類
- ステージ1 単一のリンパ節または骨髄を除く単一臓器に局在
- ステージ2 単一部位の複数リンパ節に病変が存在
- ステージ3 全身のリンパ節に病変が存在
- ステージ4 肝臓および/または脾臓に病変が存在(ステージⅢまでの所見あり/なし)
- ステージ5 末消血液中、骨髄中に腫瘍細胞が存在
- サブステージ a:臨床症状がない b:臨床症状がある
診断
- 触診:病変の有無や、リンパ節の大きさ、かたさ、形を確認します。
- 触診:病変の有無や、リンパ節の大きさ、かたさ、形を確認します。
- 血液検査、生化学検査:血液中の異常なリンパ球の出現や全身状態の把握ために行います。
- 骨髄検査:ステージ分類のために行うことがあります。
- ウイルス検査:FeLV、FIVに感染していないかどうかの確認を行います。
- レントゲン検査:胸部レントゲンにより縦隔の腫瘤や胸水、リンパ腫の肺浸潤の有無を確認、腹部レントゲンにより腹腔臓器の大きさや位置、リンパ節の大きさを確認します。
- 超音波検査:リンパ節の状態やレントゲン検査ではわからない各臓器の内部構造や血管構造等を確認します。
- 細胞診/病理組織学的検査:リンパ腫であることの確認するために行います。針生検により診断がつくことがありますが、診断がつかない場合一部組織を採取して病理組織検査を行います。
- 猫では犬のような遺伝子検査は現在利用することが出来ません。
治療
リンパ腫の治療方法には、化学療法(抗がん剤治療)、外科療法、放射線治療がありますが、全身性疾患になるため、中心となる治療は化学療法になります
化学療法
リンパ腫治療の中心となるものです。治療計画は様々ありますが、リンパ腫のステージ、動物の状態、年齢、飼い主様の通院可能回数やコストなどによって異なってきます。猫は犬と比べ化学療法によく耐え、胃腸障害は多くないといわれていますが、副作用のコントロールは重要になってきますので、担当獣医師とよく相談した上で治療を決定していきます。
外科療法
通常は第一選択にはなりません。しかし皮膚型リンパ腫が孤立性にある場合は第一選択になることがあります。
放射線療法
硬膜外、縦隔、鼻腔などの局所性リンパ腫が治療対象になります。特に鼻腔リンパ腫は化学療法と比較してもより良好な反応率、治療期間が得られています。当院で放射線治療は行っておりませんので、希望される場合は紹介させていただきます。
食事療法
犬のリンパ腫同様重要になります。犬のリンパ腫の食事療法を参照してください。
予後(今後の見通し)
一般に猫のリンパ腫は犬と比べ治療に対する反応率と寛解(症状が一時的に軽くなったり、消えたりした状態)が低く、生存期間が短いといわれています。治療の中心となる多剤併用化学療法に対する完全寛解率(リンパ腫の徴候が完全に消失したもの。治癒とは異なる)は50~70%と多様です。その理由として病型でも記載したように解剖学的形態が大きい事がひとつの要因としてあげられます。以下に予後と関連する要因を示します。
- ステージ1、2はステージ3、4、5と比べ良好(中央生存期間7.6ヶ月 vs 2.5ヶ月)
- サブステージaはステージbと比べ良好
- FelV陰性の場合、陽性と比べて良好(中央生存期間7.0ヶ月 vs 3.5ヶ月)
- 多中心型、消化器型は腎臓型と比べて良好(中央生存期間 多中心型18ヶ月、消化器型9.6ヶ月 vs 腎臓型5ヶ月)