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犬の甲状腺腫瘍

犬の甲状腺腫瘍

甲状腺の腫瘍は発生率は低いものの、そのほとんどが悪性に分類される甲状腺癌です。
35-40%で初診時に遠隔転移が見られ、最終的には80%で転移すると言われています(図1)。
また、甲状腺は甲状腺ホルモンを分泌する器官ですが、甲状腺癌ではほとんどがホルモンの分泌を伴わない非機能性腫瘍であり、甲状腺機能亢進症を伴う機能性の腫瘍はわずか10%程度です。
但し、甲状線の破壊による甲状腺機能低下症を伴うことがあります。

図1.甲状腺癌の肺転移(胸部レントゲン)
肺野にゴルフボール状の転移像が複数個認められる

診断

偶発的に、頚部に硬い腫瘤が触知されて来院されるのが一般的ですが、腫瘍が大きくなり周囲の組織を圧迫すると、発咳、呼吸速迫、呼吸困難、嚥下困難、発声障害(発声の変化)、顔面浮腫(すなわち、前大静脈症候群)がみられることもあります。
稀ではありますが、頚部血管系への浸潤により二次的に深刻な急性出血がおこることもあります。
一般的に甲状腺腫瘍は血流が豊富な腫瘍であるため、細胞診の診断精度は低いと言われています。
鑑別診断として、膿瘍、肉芽腫、唾液腺粘液嚢腫、扁桃の扁平上皮癌、リンパ腫および頸動脈小体腫瘍等が上げられます。
また、甲状腺腫瘍は60%で両側に発生すると言われているため、反対側の甲状腺の評価も重要です。
また、頚部の重要な血管や神経が周囲に存在するため、超音波検査やCT検査等の画像診断が極めて重要です
(図2-a,b)。
CT検査では比較的微小な初期の肺転移も発見できる可能性があります。

図2-a. 甲状腺癌のCT画像
黄色矢印:両側の甲状腺が腫大している

図2-b.甲状腺癌のCT画像
黄色矢印:腫大している甲状腺
赤色囲み:正常の甲状腺

治療

第一選択は外科的切除ですが(図3)、腫瘍の大きさ、浸潤の程度、甲状腺中毒の症状の有無、遠隔転移の有無および両側に発生しているかどうかにより、補助的化学療法や放射線療法との組み合わせが必要です。
また、両側の甲状腺を摘出する場合には、甲状腺ホルモンが不足するため、甲状腺ホルモン剤の生涯投与が必要です。
さらにその近傍に存在する上皮小体(血中カルシウム濃度を調節している器官)が温存出来ない場合には、術後の血中カルシウムの管理が極めて重要です。
放射線治療は一般的には甲状腺癌が切除不能な場合に行います。
根治的照射をした場合、1年生存率は80%、3年生存率は72%であり、周囲の組織は放射線障害に十分に耐えうると報告されています。
化学療法単独では、根治は見込めないものの、ドキソルビシンを用いることで部分寛解率(腫瘍の50%以上の縮小率)が30-50%です。
外科手術や放射線療法で局所制御できていても転移の起こる可能性が高い症例では補助的化学療法を推奨しています。
また、近年では、分子標的薬であるトセラニブを使用した甲状腺癌の犬において約80%で臨床的有効性を示したと報告がありましたので、飼い主様と相談の上、使用しています。

※クリックで症例画像を表示

図3.甲状腺腫瘍を切除している所
腫瘍の下に見えてるのは気管

予後

甲状腺癌は『大きさ』および『浸潤の程度』により予後が大きく変化します(表1、表2)。
表1および表2に示すように、大きくなればなるほど、転移率が高くなり、浸潤がある場合の中央生存期間は1年未満です。

表1 .腫瘍の浸潤の程度による予後の違い
瘍の程度 中央生存期間
可動性 3年
浸潤性(固着性) 6-12ヶ月
表2 .腫瘍の大きさによる予後の違い
腫瘍体積 転移率
< 20 cm3 14%
< 20-100 cm3 74%
< 100 cm3 100%

主な腫瘍疾患