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犬の骨肉腫

犬の骨肉腫

肉腫は犬の原発性骨腫瘍として最も多く、骨格系に発生する悪性腫瘍の85%を占めます。
多くは中年齢~高齢(平均7歳)に発生しますが、年齢分布は幅広く、早期の小さなピークが18-24ヶ月に存在します。
骨肉腫は通常、大型犬、超大型犬に発生します。雌よりも雄での発生がわずかに多いと報告されています。
骨肉腫の約75%は四肢に発生します。特に、前肢は後肢の2倍の発生率です。残りは顎、頭蓋骨、肋骨などの体軸骨格由来です(表1)。
一般的に、骨肉腫は局所浸潤性が強く、早期に遠隔転移が生じます。転移は肺が最も一般的ですが、骨や軟部組織などへ転移することもあります。

表1.犬の骨肉腫の体軸骨格での発生部位と割合

頭蓋(14%)
鼻・副鼻腔(9%)
脊椎(15%)
肋骨(10%)
骨盤(6%)

診断

四肢の骨肉腫の場合、一般的には跛行や局所の腫脹に気づきます。
骨肉腫は、骨溶解と骨増生が同時に起こるため、微小骨折や骨膜の破壊が起こり、非常に強い疼痛が伴います。
また、時に病的骨折を引き起こします。骨肉腫に限らず骨腫瘍では、レントゲン検査で特徴的な骨の変化が現われることが多いため、レントゲン検査が必須です(写真1)。
骨肉腫の確定診断には基本的には骨生検が必要です。
ジャムシディ骨髄生検針(写真2)を用いて骨組織を採取します。
また、非常に転移しやすいため、全身の評価も重要です。
胸部レントゲン検査、腹部超音波検査、血液検査を実施します。
骨肉腫ではリンパ節転移は稀ですが、肺転移は多く、初診時に小さな転移がすでに成立していることもあるため、CT検査での肺の評価を推奨しています。

写真1.レントゲン検査所見
上腕骨の骨肉腫骨増生と骨破壊により
病的骨折が生じている

写真2.ジャムシディ骨髄生検針

治療

骨肉腫が発生している骨は非常に強い疼痛があります。この癌性疼痛に対して一般的な鎮痛薬は効果を示しません。
骨肉腫は非常に進行の早い腫瘍ですが、疼痛を取り除くために第一選択は外科手術です。
特に、四肢に発生した場合は、断脚術が一般的です。外科治療のみでは、転移の進行を制御するには不十分なため、補助治療として化学療法をおこないます。
ドキソルビシン、カルボプラチンまたは両者の併用により治療するのが一般的です。
また、近年では、分子標的薬であるトセラニブの使用により転移のある骨肉腫の犬の約47%で臨床的有効性を示したとの報告があり期待されています。
放射線治療は、局所の疼痛緩和には非常に優れていますが、転移を抑制することは出来ません。
手術が不可能もしくは希望されない場合、非常に強い疼痛を緩和するための内科治療を推奨しています。
当院で一般的に行なっている治療は、非ステロイド系抗炎症薬、オピオイド(フェンタニルパッチ)、合成オピオイド(トラマドール)、ビスフォスフォネート(破骨細胞抑制)、鎮痛補助薬(ガバペンチンやブプレノルフィン坐薬)等を組み合わせて使用しています。
また、海外では、断脚をせずに患肢温存術(Limb-Sparing Surgery)と呼ばれる骨肉腫に罹った骨を切除し、プレート固定や移植骨を用いて固定する方法があります。
この方法では、放射線治療や化学療法を併用します。日本ではまだ、この手術が可能な施設はありません。

予後

一般的に骨肉腫の予後は悪く、早期に転移します(表2)。
過去の報告では、四肢に発生した骨肉腫を断脚+化学療法で治療した場合、ドキソルビシン単独、カルボプラチン単独、両者の併用で各々の中央生存期間は約8-12ヶ月、6.9-10.7ヶ月、7.8-10.7ヶ月と言われています。
プロトコールによる生存期間に大きな差はありませんので、通院可能な頻度や、副作用、費用等を飼い主様と相談しプロトコールを決定しています。

表2 .犬の骨肉腫の発生部位と予後
発生部位 治療内容 予後
四肢 四肢 外科のみ MST*4.3ヶ月、1年生存率12%
体軸
骨格
眼窩 完全切除 長期生存
肋骨 外科のみ
外科+Chemo**
MST 3ヶ月
MST 8ヶ月
肩甲骨 外科+Chemo 予後不良
椎骨 外科+Chemo MST 4ヶ月
扁平骨(頭蓋骨等) 完全切除 比較的良好
顎骨 下顎 外科 MST 13.6ヶ月、1年生存率71%
上顎 切除 MST 5ヶ月

*:MST=中央生存期間
**:Chemo=化学療法

主な腫瘍疾患