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インスリノーマ

インスリノーマ

概要

インスリノーマは、インスリン分泌性β細胞腫瘍であり、犬に稀にみられ、猫では極めて稀な腫瘍です。
人のインスリノーマの約90%は良性ですが、犬ではそのほとんどが悪性(がん)です。

症状は、低血糖によるものと代償性カテコールアミンの放出によるものがあり、痙攣発作、虚弱、運動失調、振戦、精神鈍麻などの神経症状が主体となります。最も多い転移部位は、局所リンパ節と肝臓であり、手術時に約50%で既に転移が認められます。

ダイナミックCT動脈相。インスリノーマ(ステージIII)の症例。膵臓の腫瘤以外にもリンパ節および肝臓に多数の転移病巣がみられる。外科的切除適応外である。

診断および臨床ステージング

低血糖に関連した症状が認められ、血液検査で、低血糖と高インスリン血症が同時に認められれば、インスリノーマが強く疑われます。
超音波検査が診断と転移の確認に奨められますが、インスリノーマの病変が非常に小さく、膵臓の腫瘤が確認できないこともあります。

そこで、最近ではより検出率を上げるために、ダイナミックCTと呼ばれる特殊な撮影法を用いたCTでの病変および転移病変の確認を実施しています。
胸部レントゲン検査やCTが肺転移の評価に用いられますが、インスリノーマの肺転移は稀です。犬のインスリノーマには、以下の臨床ステージングシステムが使用されています。

※クリックで症例画像を表示

インスリノーマ(ステージII)の症例。腫大したリンパ節(リンパ節転移)を認める。

治療

外科的切除が推奨されます。

ステージIの場合、腫瘍だけをくりぬくように摘出する核出術ではなく、可能であれば、膵臓部分摘出術を実施します。核出術は膵臓部分摘出術に比べ、腫瘍制御と生存期間が劣るからです。

ステージIIの場合、膵臓部分摘出術と腫大あるいは転移したリンパ節を可能な限り切除します。たとえ腫瘍を完全に摘出できず、減容積手術に終わっても低血糖を緩和できることがあるため、生存期間の延長が期待できます。
ステージIIIの場合、初期の場合を除き、手術適応とはならないことが多く、内科療法のみを実施します。
内科療法は、術前の安定化および手術適応とならないインスリノーマの犬で実施され、血糖値を何とか維持し、低血糖症状を防ぐために行われます。
具体的には、食事療法(単糖類を軽減した高タンパク・複合炭水化物を含有した食事を1日4~6回に分けて与える)や、プレドニゾロン、ジアゾキシド、オクトレオチドなどの薬剤を使用します。
化学療法として、ストレプトゾトシン(静脈注射)が使用されますが、腎毒性が強い薬剤であり、大量の輸液の投与が必要となるため、腎機能が低下した症例、心機能が低下した症例では使用できません。
そこで、まだ一般的な治療ではありませんが、腎毒性を軽減し、腫瘍への薬剤濃度を高めることができる動注化学療法が切除不能なインスリノーマに有効となる可能性があります。

予後

インスリノーマの予後は、臨床ステージや治療法により様々ですが、完治が望めないため、通常は、要注意です。

しかし、数回の減容積手術により、3年以上良好に経過した例も経験しています。
ステージIII(遠隔転移あり)の犬の中央生存期間は、6ヶ月未満であり、ステージI(転移なし)あるいはステージII(リンパ節転移あり)の犬の18ヶ月に比べて顕著に短いです。
保存的治療のみで治療した犬の中央生存期間は74日で外科的治療を実施した犬の381日と比較して非常に短いです。

主な腫瘍疾患