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軟部組織肉腫

軟部組織肉腫

軟部組織肉腫(Soft Tissue Sarcoma ; STS)は、非上皮系悪性腫瘍(肉腫)のうち、以下の表−1に示す特徴を有する腫瘍のことを指します。
通常は中〜高齢の犬に発生します。
STSに分類される腫瘍は、主に線維肉腫、末梢神経鞘腫(PNST)、脂肪肉腫、粘液肉腫等です。

表−1.STSの特徴

また、分化度、核分裂指数及び壊死の割合によって組織学的グレードが1−3に分類され、転移率が大きく異なります(表−2)。
STSの転移部位は主に肺や所属リンパ節ですが、脂肪肉腫は肝臓や脾臓に転移しやすいと言われています。

−2. STSの転移率

グレード1 10%
グレード2 20%
グレード3 40-50%

診断

STSは通常、硬く触れる皮下の腫瘤(写真1)として発見されます。急速増大する場合もありますが、一般に緩徐に増大し最終的に巨大化します。筋肉(筋膜)に固着することもしばしばあります。細胞診検査では、採取される細胞が乏しいことが多いため(写真2)、STSを疑うことは可能ですが、診断まではできません。細胞診検査にてSTSが疑わしい場合には、組織生検をおこないます。大きなSTSである場合には、見た目以上に周囲組織に浸潤していることが多いため、切除範囲を決定するためにCT検査が有用な場合もあります。また、転移がないか、その他の併発疾患がないかを把握するために全身状態の評価(血液検査、レントゲン検査、超音波検査、所属リンパ節の細胞診検査等)も必要です。上記の検査をもとに臨床ステージを評価します(表−3)。

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写真1.皮下に触れる硬い腫瘤、巨大化している。

写真2.細胞診所見。細胞成分に乏しく、紡錘形細胞が散見されるのみ。

表−3. 軟部組織肉腫のTNM分類

原発腫瘍(T)
T1:腫瘍の最大直径<5cm T2:腫瘍の最大直径>5cm
T1a:表在性の腫瘍 T2a:表在性の腫瘍
T1b:深在性の腫瘍 T2b:深在性の腫瘍
領域リンパ節(N) 遠隔転移(M)
N0:領域リンパ節転移なし M0:遠隔転移なし
N1:領域リンパ節転移あり M1:遠隔転移あり

臨床ステージ

Stage T N M Grade
あらゆるT N0 M0 Ⅰ−Ⅱ
T1a-T1b,T2a N0 M0
T2b N0 M0
あらゆるT
あらゆるT
N1
あらゆるN
あらゆるM
M1
Ⅰ−Ⅲ
Ⅰ−Ⅲ

治療

治療の第一選択は外科手術です。特に、初回手術で十分な外科マージンを確保して切除することが最も重要です。再発を繰り返すほどSTSは悪性度が高くなり周囲組織へ広範囲に浸潤するため、外科マージンを確保するために特殊な皮弁(写真3)が必要になったり、軽度の外貌の変化や機能損傷が起こる可能性が高まります。また、転移率も高くなります。
四肢や頭部などの十分な外科マージンの確保が困難な部位のSTSは、外科手術(計画的辺縁部切除)と放射線療法を組み合わせて治療をおこないます。
化学療法は、肉眼病変がある場合には効果が乏しく、外科治療と組み合わせて使用するのが一般的です。特に組織学的グレード3のSTSでは、約40−50%で転移が生じるため、術後の化学療法が推奨されています。

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写真3.皮弁が必要になった例
下腿部に5.5cmのSTSが存在

筋膜(一部、筋肉を含めて)をバリアにして切除している所見。

皮弁を用いて皮膚の欠損を補った(術後20日目)。

予後

一般に、初回の外科手術で十分な外科マージンの確保が可能で、組織学的グレードが1−2だった場合には予後は大変良く、局所再発率は10%程度です。一方、組織学的グレード3、再発例、リンパ節転移や遠隔転移がある場合には、補助治療が必要です。

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