松原動物病院 松原動物病院

学術コラム

整形外科 2026.05.01
股関節形成不全の診断と治療

月齢ごとの評価法、症状の現れ方、介入適応の整理

 

はじめに

犬の股関節形成不全(canine hip dysplasia: CHD)は、股関節の適合不全、関節弛緩性、そしてその後に続く変形性関節症(OA)を中心とする発育性疾患です[1]。そのため、CHDの診療ではどの月齢で、何を目的に評価しているのか、どの治療が適切かを分けて考えることが大切です。本稿ではこれらをエビデンスに基づき整理します。

 

疫学

CHDは多因子性疾患であり、遺伝的背景に加えて、成長速度、体重、栄養、運動環境などが病態の発現や進行に関与すると考えられています[1]。犬種差は大きいものの、報告される有病率は、国、スクリーニング制度、評価法、対象集団、調査年代の影響を受けます。そのため、犬種別の数字を示す際には、どの国の、どのような集団を対象とした値かをあわせて検討する必要があります。欧米の一部の国では積極的に遺伝的な問題に取り組み、近年有病率や重症症例が減少しています(表1)[2-4]

 

また、栄養管理については、ラブラドールレトリーバーを対象とした長期研究で、給餌制限群において股関節OAのX線学的発症が遅れたことが報告されています[6]。これは関節弛緩そのものの改善を示したものではなく、体重や力学的負荷の違いを介してOAの発現や進行が抑制されたと考えられます。

 

表1 犬種別のCHD有病率の報告例

犬種 有病率 対象・評価法 文献
ゴールデン・レトリーバー 53-73% 24〜60か月齢犬を対象とした前向き研究。OFAによる評価を用いた有病率推定 米国 Paster et al., 2005 [2]
ロットワイラー 41-69%
ゴールデン・レトリーバー 25% → 9% 1995-1999年と2010-2016年の比較、国内スクリーニング結果の後ろ向き解析 スイス Ohlerth et al., 2019 [3]
フラット・コーテッド・レトリーバー 6% → 3%
バーニーズ・マウンテン・ドッグ 21% → 12%
ジャーマン・シェパード・ドッグ 46% → 18%
ジャーマン・シェパード・ドッグ D-E 7% 国内スクリーニング制度の総括 スウェーデン Hedhammar, 2020 [4]
ラブラドール・レトリーバー D-E 4%
ゴールデン・レトリーバー D-E 2%

注)FCI 分類では股関節X線所見を A-E の5段階で評価します。

A:正常、B:ほぼ正常、C:軽度、D:中等度、E:重度を示します[5]

 

症状の発生時期

CHDの発症時期は、時間経過に沿ってみると二つの時期に分けられます。若齢期には、関節弛緩性や不安定性に関連した症状が主体になりやすく、成熟後には、長期にわたる力学的異常の結果として生じたOAに関連する慢性疼痛が主体になりやすいとされています[1]。ただし、実際には両者が明確に分かれるとは限らず、若齢でもOAがみられることがあり、成犬でも不安定性が症状に関与している場合があります。

 

表2 CHDにおける症状の発生時期と病態の対応

時期 病態の中心 主な症状・所見 臨床で重視しやすい点
若齢期(おおむね1歳未満) 関節弛緩性、不安定性 活動後の跛行、運動不耐性、立ち上がりのぎこちなさ、跳躍回避 弛緩性の把握、JPSやTPO/DPOの適応検討
成熟後 OA、慢性疼痛、機能低下 慢性疼痛、可動域制限、筋萎縮、活動性低下、起立時のこわばり 保存療法、THR、FHNEの検討

 

診断

CHDの診断では、月齢によって評価の目的が少しずつ変わります。

 

オルトラニー試験

若齢犬のスクリーニングでは、オルトラニー試験は比較的簡便に関節弛緩性を疑う手掛かりになります。とくに12週前後では、JPSの適応を考える前段階として参考になりますが、陰性であってもCHDを除外できるわけではありません

大腿骨を内転させた状態で背側に圧迫して亜脱臼させた後、外転しながら整復時のクリック感を確認することで、股関節の弛緩性を評価する整形学的検査です。筋緊張、鎮静条件、体格、すでに進行した形態変化などの影響を受けるため、身体検査所見の一部として扱います[7]

 

PennHIP

早期の関節弛緩性評価にPennHIPがあります 。撮影には専用機器と標準化された手技が必要であり、認定トレーニングを受けた獣医師が実施します。PennHIP は16週齢から実施可能で、受動的関節弛緩性を distraction index(DI)として定量化します。若齢期に通常のVD伸展像より早い時期から情報が得られる点は、診療上役立つことがあります[1]。ただし、DIは単独で治療方針を決める値ではなく、将来のOAリスク評価や繁殖選抜の参考となり、症状や通常X線所見とあわせて臨床判断材料の一つとなります。

 

OFA暫定評価

OFA暫定評価は、生後4〜23か月齢の犬を対象とした若齢期の暫定的な股関節X線評価です。通常のVD伸展像を用いて股関節形態を評価し、Excellent〜Severe に分類されます。若齢期に股関節形態や適合性、二次性変化の有無を早期に把握する手段として位置づけるのが適切です。24か月齢未満ではあくまで暫定評価であり、年齢が若いほど将来の最終評価とのずれが生じうる点には留意が必要です[1]

5-12か月齢前後では、CHDの有無だけでなく、骨盤骨切術(TPOやDPO)などの外科的介入の適応も検討します。TPOやDPOは年齢だけでなく、OA変化が少ないこと、大腿骨頭を寛骨臼内に十分整復できる余地が残っていること、疼痛や跛行が不安定性に関連していることが重要になります[9-11]

 

表3 月齢ごとの主な評価目的と推奨検査

月齢 主な評価目的 推奨される評価 補足
8-12週 リスク把握 問診、歩様、触診、必要に応じ鎮静下整形学的身体検査 高リスク犬種や家系では早めの整形評価が参考に
12-16週 早期スクリーニング オルトラニー試験、必要に応じ画像評価 JPSの適応を検討できる時期
16週以降 関節弛緩性の定量評価 PennHIP、通常VD進展像 PennHIPは16週齢から実施可能
4-24か月 形態評価の補強 OFA暫定評価、通常X線、身体検査 形態評価の補助として利用
5-12か月前後 外科的介入評価 身体検査、通常X線、関節形態、OA評価 TPO/DPOの適応判断
成熟後 疼痛・機能障害の評価 X線、ROM、筋量、歩様、生活の質評価 保存療法、THR、FHNEの選択へ進む

 

治療

表4 月齢・病期ごとの主な治療選択

時期 主な治療 中心となる適応
12-16週 JPS 高リスク若齢犬、弛緩性あり、OAなし
5-12か月前後 TPO/DPO 若齢、疼痛や不安定性あり、重度な関節形態異常なし、OA最小限
成熟後〜 保存療法 軽度〜中等度症候、外科適応が限定的、または外科希望なし
成熟後〜重度 THR 強い疼痛、機能障害、再建を目指す症例
成熟後〜重度 FHNE 救済的、費用・適応などに制約がある症例

 

若齢期恥骨結合癒合術(juvenile pubic symphysiodesis, JPS)は、恥骨結合の成長板を部分的に早期に閉鎖させることで、成長に伴う寛骨臼被覆を改善させる術式です。効果は12-16週齢で比較的大きく、時期が遅くなると改善効果は小さくなる傾向があります[7,12]。このため、JPSは若齢犬一般に広く考える手術というより、適応時期がかなり限られた早期介入法です。

 

TPOおよびDPOは、寛骨臼の向きを変えて大腿骨頭被覆を改善する関節形成術です。年齢だけでなく、OAの少なさ、関節形態、合併症(インプラント関連、骨盤狭窄、坐骨神経障害など)について検討する必要があります[9-11]

 

保存療法には、体重管理、運動管理、NSAIDs、理学療法、リハビリテーションなどが含まれます。これらは疼痛緩和や機能維持に有用ですが、関節弛緩や被覆不足そのものを是正する治療ではありません[1]。そのため、若齢犬で外科的介入の適応が残る可能性がある場合には、保存療法のみで経過をみるかどうかを慎重に判断する必要があります。

 

人工股関節全置換術(Total hip replacement, THR)は、重度疼痛と機能障害を伴う成熟症例において、有効性の高い選択肢です。良好なアウトカムが得られる症例が多い一方で、一定の合併症率も報告されています[13]。また、手術自体の難易度も高く、国内で実施可能な施設は非常に限られています。

 

大腿骨頭骨頸部切除(Femoral head and neck excision, FHNE)は、疼痛軽減を主目的とする 救済手術として位置づけられることが多く、THRが難しい症例で選択されます。術後機能は筋量やリハビリの影響を受けやすく、期待できる機能回復の範囲を理解しておく必要があります[14]

 

まとめ

CHDの診療では、どの月齢で、何を目的に評価しているのかを意識することが大切です。

単一の検査や単一の治療で語るよりも、時間軸に沿って診断法と治療目標を切り替えていく疾患として整理した方が、臨床現場における意思決定をよりスムーズにするものと考えられます。若齢期の評価では症状の強さだけでなく、将来的な病態進行も見据えて検査法を選ぶことが大切です。

 

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参考文献

  1. Schachner ER, Lopez MJ. Diagnosis, prevention, and management of canine hip dysplasia: a review. Vet Med (Auckl). 2015.
  2. Paster ER, LaFond E, Biery DN, et al. Estimates of prevalence of hip dysplasia in Golden Retrievers and Rottweilers and the influence of bias on published prevalence figures. J Am Vet Med Assoc. 2005.
  3. Ohlerth S, Geiser B, Fluckiger M, Geissbuhler U. Prevalence of canine hip dysplasia in Switzerland between 1995 and 2016: a retrospective study in 5 common large breeds. Front Vet Sci. 2019.
  4. Hedhammar A. Swedish experiences from 60 years of screening and breeding programs for hip dysplasia - research, success, and challenges. Front Vet Sci. 2020.
  5. Federation Cynologique Internationale. FCI Hip Dysplasia Classification. https://www.fci.be
  6. Smith GK, Paster ER, Powers MY, et al. Lifelong diet restriction and radiographic evidence of osteoarthritis of the hip joint in dogs. J Am Vet Med Assoc. 2006.
  7. Linn KA, et al. Juvenile Pubic Symphysiodesis. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2017.
  8. Franco-Goncalo P, et al. Femoral parallelism and its impact on Norberg angle and hip congruency index. Vet Comp Orthop Traumatol. 2023.
  9. Guevara F, et al. Triple Pelvic Osteotomy and Double Pelvic Osteotomy. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2017.
  10. Vezzoni A, et al. Double pelvic osteotomy for the treatment of hip dysplasia in young dogs. Vet Comp Orthop Traumatol. 2010.
  11. Petazzoni M, Tamburro R. Clinical outcomes of double pelvic osteotomies in dogs with hip dysplasia aged 10-28 months. Vet Surg. 2022.
  12. Dueland RT, et al. Canine hip dysplasia treated by juvenile pubic symphysiodesis: a controlled study of two ages at surgery. Vet Surg. 2010.
  13. Allaith S, et al. Outcomes and complications reported from a multiuser canine hip replacement registry over a 10-year period. Vet Surg. 2023.
  14. Harper TAM. Femoral Head and Neck Excision. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2017.

 

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