はじめに
動脈管は胎生期に胎盤で酸素化された血液を肺動脈から下行大動脈へとシャントし、機能していない胎児肺を回避するように右心室からの血流の大部分を迂回させる役割を担います。
動脈管は通常は生後7〜10日以内に確実に閉鎖します。動脈管が新生子期早期を過ぎても開存したままである状態を動脈管開存症(以下、PDA)と呼び、犬で最も一般的な先天性心疾患です。猫でも発生はみられますが、犬と比較すると少ないです。
病態生理
PDAを介した血流は、はじめ圧の高い大動脈から圧の低い肺動脈へ (左→右)流入するため、肺血流が増加し、それに伴い肺静脈灌流量および左室拡張末期容積が増加します。その結果、左室一回拍出量は増加し、収縮期圧は上昇します。
拡張期においても、大動脈からより低圧の肺動脈へ血液が流出するため、拡張期圧は低下します。この結果、収縮期と拡張期の血圧差が増大し、反跳脈 (バウンディングパルス)が生じます。
左心室は遠心性肥大することで、PDAを介した血流に伴う容量負荷を代償しますが、短絡量が多い場合は左室収縮力が低下します。その結果、左室拡張末期圧が上昇し、最終的には肺水腫へ進行します。
PDAによる肺血流増加は、肺動脈の中膜および内膜肥厚、内腔狭小化などの組織学的変化を引き起こし、肺高血圧症を生じます。
肺動脈圧が大動脈圧を上回ると短絡血流の方向が逆転し、肺動脈から大動脈へ (右→左)流入するようになります。この状態をアイゼンメンジャー症候群と呼び、アイゼンメンジャー症候群に移行したPDAをリバースPDAと呼びます。リバースPDAは生後数週間以内で発症することもあれば、成犬になった後に発症することもあります。
シグナルメント
PDAは性差が確認されている唯一の先天性心疾患であり、雌に多いとされています。
(雌: 2.49/1000 vs 雄: 1.45/1000)
好発犬種は以下の通りです。
ビション・フリーゼ、チワワ、トイ・プードル、ポメラニアン、マルチーズ、ヨークシャテリア
臨床所見
臨床症状
□ PDA (左→右シャント)
・多くは無症状
・重度の症例は左心不全に伴う頻呼吸、発育不良
■ リバースPDA (右→左シャント)
・運動不耐性、運動時の後肢脱力、頻呼吸、呼吸促迫、稀に発作
身体検査所見
□ PDA (左→右シャント)
・反跳脈 (バウンディングパルス)
・左側心基底部を最強点とする連続性雑音
(心尖部では心雑音が聴取されない場合や収縮期雑音のみ聴取される場合があります)
■ リバースPDA (右→左シャント)
・解離性チアノーゼ (尾側粘膜はチアノーゼだが、頭側粘膜はピンク色になる現象。PDAは下行大動脈と肺動脈を短絡しているため、上行大動脈へ静脈血は流入せず、頭側粘膜はピンク色となります)
・心雑音なし、もしくは左側心基底部を最強点とする軽度の収縮期雑音
・Ⅱ音の亢進、分裂
・多血症
腎臓が低酸素血症の血液で灌流されることでエリスロポエチンの産生が促進
→二次性赤血球増多症
胸部X線検査所見
□ PDA (左→右シャント)
・左心拡大
・肺血流増加に伴う肺静脈、肺動脈の拡張
・下行大動脈の膨隆(下図、赤線)

■ リバースPDA (右→左シャント)
・右心拡大
・主肺動脈の拡張 など
心エコー図検査所見
PDAは、シグナルメント、身体検査所見より強く疑うことは可能ですが、確定診断には心エコー図検査による動脈管の描出が必要です。動脈管は左傍胸骨両大血管短軸像にて描出しやすく、サイズおよび形態評価を実施します。また、動脈管内を流れる短絡血流の向きおよび流速を評価することで、肺高血圧症の合併の有無を判断します。
通常、動脈管を流れる短絡血流の最大速度は約3.5 m/sec以上 (通常4.5〜5 m/s)であり、これを下回る場合は肺高血圧症の合併が疑われます。
(A)(B)左傍胸骨両大血管短軸像。動脈管 (DA)と短絡血流 (左→右)が認められる。


(C)PDAによる短絡血流波形。

リバースPDAでは肺動脈から大動脈への短絡血流が確認されますが、通常血流速度は1〜2 m/sec程度であり、カラードプラ法にて高速血流や乱流は確認されないため、見逃さないように注意が必要です。
コントラスト心エコーはリバースPDAを確認するのに有用です。
コントラスト心エコーとは橈側皮静脈より細かい気泡を含んだ生理食塩液を投与することで、心臓内短絡や動静脈瘻の有無を確認する検査です。正常では右心系に流入したマイクロバブルは肺にトラップされるため、左心系(左心房、左心室、腹大動脈など)には認められませんが、短絡がある場合にはマイクロバブルが左心系に認められます。リバースPDAでは下行大動脈にマイクロバブルが流入するため、腹大動脈が造影されます。
(A)右傍胸骨長軸四腔断面。右心拡大が認められる。

(B) (C) 左傍胸骨両大血管短軸像。動脈管 (DA)と短絡血流 (右→左)が認められる。


(D)PDAによる短絡血流波形。

自然経過
PDAを有する子犬や子猫は、診断時にはしばしば臨床的に無症状に見えます。しかし無治療の場合、多くのPDAは左心不全や肺高血圧症を伴うリバースPDAへと進行します。
□ PDA (左→右シャント)
治療しない場合、生存率に著しい悪影響を及ぼすとされています。過去の報告ではPDA(左→右シャント)に対して閉鎖術または外科的結紮を行った犬の生存中央値は12歳であるのに対し、未治療犬では2歳とされています。また、未治療のPDAを有する14頭の犬を対象とした研究では、64%が検査後1年以内に死亡しています。
■ リバースPDA (右→左シャント)
左心不全はほとんど発生しないため、長期生存が可能です。ただし低酸素血症、赤血球増多症、過粘稠症候群、不整脈などを生じ、突然死リスクがあるため生涯に渡った運動制限や投薬が必要になります。
治療
PDAは、左→右シャントを呈する場合、放置すると長期予後が不良となるため早期閉鎖が原則です。若齢期に治療を行えば根治が期待できますが、診断時年齢にかかわらず、可能な限り速やかな治療介入が推奨されます。肺高血圧症を伴う症例でも、肺動脈圧が全身血圧に達していなければ閉鎖は可能です。一方、完全な右→左シャントのリバースPDAでは閉鎖は禁忌となります。ただし一部症例(特に猫)では、シルデナフィルなどにより肺動脈圧を低下させ、左→右シャントへ再転換できる可能性があります。
・カテーテル閉鎖術 (コイル、ACDOなど) ※ACDO:犬用動脈管開存症閉鎖栓
現在、犬においては経カテーテル動脈管閉鎖術が確立された治療法であり、低侵襲でリスクが低いため、多くの犬では外科的結紮術よりも優先されます。松原動物病院でも数cmの切皮で実施可能で、翌日退院できます。
ただし、以下のような場合は適用外となるため外科的結紮術の適応となります。
・体が小さい症例 (体重<1.6 kg)
・動脈管の形態が漏斗状ではない
選択的血管造影検査。動脈管 (DA)が認められる。
(A)手術前 (B)コイル塞栓術の術後

ACDO塞栓術後の胸部X線検査

外科的結紮術
左第4肋間開胸 (猫は第5肋間の場合も)後、心膜外から動脈管周囲を剥離します。
松原動物病院では動脈管の尾側から頭側に直角鉗子を入れて、糸を通す直接法を実施しています。
内科治療
PDAは早期閉鎖が原則ですが、肺水腫を呈している症例や臨床症状を呈しているリバースPDAの症例には以下の示すような内科治療が推奨されます。
□ 肺水腫を呈しているPDA (左→右シャント)
利尿剤、強心薬
■ リバースPDA (右→左シャント)
シルデナフィル
瀉血 (PCV: 68%以上で考慮)
ヒドロキシウレア
ご紹介の流れ
PDA疑いまたは診断された患者様を当院にご紹介の場合は、紹介フォーム(リンクが開きます)にて循環器科をご指定ください。紹介フォームにより、診療情報を事前にご提供いただくことで、よりスムーズな医療連携が可能となりますのでご協力をお願いいたします。
なお、患者様の来院予約は別途必要です。当日・翌日のご予約をご希望の場合は診療時間内に下記番号までお電話をお願いいたします。2日後以降の日程でも差し支えない場合は、当院初診のご家族様にはこちらの新患様予約申込(リンクが開きます)からご入力いただくようお伝えください。翌診療日に当院よりお電話し新患様の来院予約を確定いたします。
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