松原動物病院 松原動物病院

学術コラム

皮膚科 2026.08.15
犬のアトピー性皮膚炎

はじめに

犬のアトピー性皮膚炎は、遺伝的素因を背景に、皮膚バリア機能の不全、免疫系の異常、および皮膚マイクロバイオームの乱れ(ディスバイオシス)が複雑に相互作用して発症する、慢性の掻痒性炎症性皮膚疾患です。

 

病態

病態は、多因子が絡み合う複雑なものです。

 

  • 免疫系の調節異常(多極的な炎症軸): 従来はTh2細胞主導の疾患と考えられてきましたが、現在ではTh1、Th2、Th17、Th22という多極的な免疫軸の活性化が関与していることが明らかになっています。
  • 皮膚バリア機能の低下: 遺伝的な要因(フィラグリンなどのタンパク質の発現低下)により、皮膚の構造的なバリアが損なわれています。これにより、セラミドなどの細胞間脂質が減少し乾燥を招くとともに、アレルゲンが侵入しやすい状態になります。
  • 掻痒と神経炎症: 角質細胞からIL-25、IL-33、TSLPなどを放出させ、さらに炎症を増幅させる「かゆみと掻破のサイクル」を形成します。特にIL-31は、知覚神経の受容体に直接作用して強いかゆみを引き起こす主要なメディエーターです。
  • 微生物のディスバイオシス: アトピーの皮膚では微生物の多様性が低下し、Staphylococcus pseudintermediusやマラセチアが過剰増殖し、これが二次的な感染症やアレルギー反応を悪化させる因子となります。

 

症状

症状は個体やステージによって多様ですが、特徴的なパターンが存在します。(図1)

 

(図1)

犬アトピー性皮膚炎に特徴的な皮ふ病変。松原動物病院 皮膚科

 

  • 初期症状と分布: 主な症状は激しい掻痒と紅斑です。一般に、顔面、耳介の内側、腋窩、鼠径部、指趾間(足先)、肛門周囲などに病変が分布します。
  • 慢性症状: 掻痒行動や慢性炎症により、脱毛、色素沈着、苔癬化、脂漏が生じます。
  • 合併症: 約50%の症例で外耳炎を併発します。また、細菌感染症(膿皮症)やマラセチア性皮膚炎が頻繁に見られます。

 

診断

除外診断が基本となります。

 

  • 病歴と特徴の確認: 発症年齢(一般に6ヶ月〜3歳)、室内飼育、ステロイドへの反応性、耳や前足の病変などが手がかりになります。
  • 他の疾患の除外:
    1. 外部寄生虫の除外
    2. 二次感染の治療
    3. 食物有害反応(食物アレルギー)の除外
  • 臨床診断基準: Favrotの診断基準などが補助ツールとして用いられます。

 

以下の7項目のうち、5項目を満たすと感度77.2%、特異度83%です。6項目を満たすと特異度が93.7%に達します。

・発症年齢が3歳未満である

・主に室内で生活している

・発症初期、病変が認められない段階から掻痒があった

・前足に病変がある

・耳介に病変がある

・耳翼縁(耳のふち)に病変がない

・腰背部(背中から腰)に病変がない

 

  • アレルギー検査の役割: 皮内試験(IDT)や血清アレルゲン特異的IgE検査(SAT)は、cADの「診断」のために行うのではなく、診断がついた後に「どのアレルゲンを免疫療法に含めるか」を決定するために行われます。

 

治療

完治が困難なため、多角的かつ生涯にわたる管理が必要です。また、重要となるのは維持期の治療であり、再燃のリスクを減らすため体質改善なども重要となります。(図2)

 

(図2)犬アトピー性皮膚炎の治療の概要

 

  • 急性期の治療(寛解誘導):
    • ロキベトマブ(サイトポイント): IL-31を中和する抗体。投与から数時間でかゆみを抑え、副作用が極めて少ないのが特徴です。
    • アポキル、ゼンレリア: JAK阻害薬。炎症やかゆみのシグナルを素早く遮断します。
    • ステロイド: 即効性が高く強力ですが、長期使用による多飲多尿、皮膚菲薄化などの副作用に注意が必要です。

 

  • 維持治療と体質改善:
    • シクロスポリン: T細胞の活性化を抑える免疫抑制薬。効果が出るまでに4〜6週間かかりますが、長期管理に適しています。
    • アレルゲン特異的免疫療法(ASIT): 唯一、免疫の反応自体を変えうる「根本的」な治療です。効果の判定には最低1年程度の継続が必要です。

 

  • 補助的・予防的なケア:
    • スキンケア: 保湿成分(セラミド等)を含むシャンプーや保湿剤、洗浄により、バリア機能を補いアレルゲンや細菌を除去します。
    • 食事療法: 皮膚バリアをサポートする必須脂肪酸(EPA/DHA)などが配合された療法食が有効です。
    • 定期的な二次感染のチェック: 急な悪化が起きた際は、膿皮症などの二次感染を疑い、早期に対応することが重要です

 

ご紹介の流れ

犬アトピー性皮膚炎疑い、あるいは診断された患者様を当院にご紹介の場合は、紹介フォーム(リンクが開きます)にて皮膚科をご指定ください。紹介フォームにより、診療情報を事前にご提供いただくことで、よりスムーズな医療連携が可能となりますので、ご協力をお願いいたします。

 

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