はじめに
犬の口腔内腫瘍の中で最も発生しやすいものは悪性メラノーマですが、その他にも様々な腫瘍ができることがあります。口腔内腫瘤の確定診断には多くの場合で組織生検が必要になりますが、特徴的な外観をしているものもあり、視診も重要な診断材料の一つになることがあります。
また、診断後にはその腫瘍の特性を知った上で治療方針を計画する必要があります。
以下に悪性メラノーマ以外で犬の口腔内に多く発生する腫瘍について記載します。
(腫瘍の名前をクリック/タップするとそれぞれの説明に飛びます)
扁平上皮癌
口腔内に発生する扁平上皮癌は、潰瘍のような見た目をしていることがあリます。(写真1,2)

写真1:犬の口腔内に発生した扁平上皮癌。歯肉の色素が失われ、表面も潰瘍のようになっています。

写真2:犬の口腔内に発生した扁平上皮癌。口を閉じているとまったく見えない位置ですが、上顎(硬口蓋)全体を覆い尽くすように広がっており(浸潤)、凸凹しています。
扁平上皮癌の特徴としては、転移率は高くはないものの、局所浸潤性が強く、根治を目指すには広範囲での切除(周囲組織や顎骨を含めた切除)が必要になります。しかし、強い局所浸潤のために、発見時には手術が困難となっていることも珍しくありません。
下顎骨に発生した扁平上皮癌の手術後(下顎骨切除後)の再発率は0-10%で生存期間中央値はおよそ19-43ヶ月であり、上顎に発生した扁平上皮癌の手術後(上顎切除後)の再発率は14-29%で生存期間中央値は10-39ヶ月程度と報告されています。
また、切除困難な症例に対する緩和治療、術後の再発を防ぐ目的で放射線治療を実施することもあります。
線維肉腫
線維肉腫はドーム状にピンク色の腫瘤を形成することがあります。(写真3)扁平上皮癌と同様に局所浸潤性が強く、広範囲切除(顎骨を含む)を実施できなければ早期に再発することが多い腫瘍です。線維肉腫は放射線抵抗性であり、放射線による腫瘍の縮小は期待できません。そのため、手術で取り切れるかどうかが予後に直結します。
過去の報告では、手術後(顎骨切除後)の再発率は24%、生存期間中央値は743日程度との報告があります。

写真3:犬の口腔内に発生した線維肉腫。画像の腫瘍はドーム状でピンク色の腫瘤を形成しています。
棘細胞性エナメル上皮腫
棘細胞性エナメル上皮腫(写真4)は悪性腫瘍ではなく、遠隔転移などの危険性は低いです。しかし、周囲組織に食い込んでいく局所浸潤性があり骨にまで浸潤することが多いため、切除の際には広範囲切除(顎骨を含み切除する)を実施しなければ早期に再発する可能性があり、注意が必要です。
前述のように遠隔転移する可能性は低いため、完全切除が達成できれば予後は良好です。

写真4:犬の口腔内に発生した棘細胞性エナメル上皮腫。 歯肉にあるピンク色の腫瘤が歯を変位させています。見た目だけではなく骨浸潤の程度も注意深く評価が必要です。
線維腫性エプリス(周辺性歯源性線維腫)
歯根膜由来の結合組織から発生する良性腫瘍であり(写真5)、治療は外科手術です。
切除生検などの部分切除でも再発しない場合もありますが、再発した際にはさらに深い部分までの切除が必要になります。
歯根膜から発生する腫瘍であるため、切除の際には発生源(原発巣)を取り除くために抜歯、歯根膜の掻爬、歯槽骨の切削といった処置が必要になることがあります。また、何度も再発する症例や顎骨への浸潤を認める場合には顎骨切除を含めた広範囲切除が必要になることもあります。

写真5:犬の口腔内(下顎)に発生した線維腫性エプリス(周辺性歯源性線維腫)。 歯肉にあり、歯を変位させている腫瘤が確認できる。
リンパ腫
リンパ腫はリンパ節に発生する多中心型リンパ腫がよく知られていますが、口腔内にも発生することがあります。(写真6)
口腔粘膜に発生するリンパ腫は皮膚型リンパ腫の1つであり、多くはT細胞由来です。その他の多くの口腔内腫瘍と最も異なる点は治療は化学療法が中心になることです。口腔内病変がリンパ腫であった場合は、その他リンパ節の腫脹や病変が無いかを詳しく精査し、治療にあたる必要があります。

写真6:犬の口腔内(歯肉)に発生したリンパ腫。いびつな形に粘膜が盛り上がっているように見え、画像では表面から出血している。
ご紹介の流れ
各種の口腔内腫瘍疑いまたは診断された患者様を当院にご紹介の場合は、紹介フォーム(リンクが開きます)にて腫瘍科をご指定ください。紹介フォームにより、診療情報を事前にご提供いただくことで、よりスムーズな医療連携が可能となりますのでご協力をお願いいたします。
なお、患者様の来院予約は別途必要です。当日・翌日のご予約をご希望の場合は診療時間内に下記番号までお電話をお願いいたします。2日後以降の日程でも差し支えない場合は、当院初診のご家族様にはこちらの新患様予約申込(リンクが開きます)からご入力いただくようお伝えください。翌診療日に当院よりお電話し新患様の来院予約を確定いたします。
患者様が当院に来院歴がある場合は、ご家族様から当院へ直接ご連絡いただくようお伝えください。
松原本院 ☎ 072-331-3493
大阪府松原市田井城2-1-7
天満橋医療センター ☎ 06-6354-4140
大阪府大阪市北区天満3-2-16