松原動物病院 松原動物病院

学術コラム

透析科 2025.08.15
血液透析

はじめに:透析治療とは

透析治療は、腎臓を治す治療ではなく、障害された腎臓の機能を人工的に補う治療です。

腎代替療法と呼ばれ、本来、老廃物・毒素の排泄やミネラルのバランス調節、ホルモン分泌などを行う腎臓の機能のうち、一部の機能を機械で代替します。

 

犬や猫の透析治療は、人と異なり、慢性腎臓病に対してはほぼ行われず、急性腎障害に対して行われています。

透析治療は、適切な症例に実施すれば、一般的な点滴治療では改善できない状態でも十分な改善が見込めます。

 

透析治療には血液透析と腹膜透析とがあり、松原動物病院では血液透析をメインに行なっています。

 

血液透析

血液透析は、専用の血管カテーテルを通して老廃物や余分な水分がたまった血液を一度体外へ出したのち、ダイアライザー(人工腎臓)と言われる濾過装置で血液を濾過し、老廃物や余分な水分を取り除いてから再び身体の中へと戻す治療です。

 

血液透析は間欠的・持続的に行う手法がありますが、松原動物病院では、間欠的手法で1日3〜5時間、毎日から数日おきの透析治療を行なっています。

 

松原動物病院にある動物用の血液透析の機械(ニプロ、NCU-A)。効果的に血液中の毒素の除去ができます。

(図1)動物用血液透析機  NCU-A  (リーフインターナショナル)

 

松原動物病院で使用しているダイアライザー。人工腎臓とも呼ばれる。体のサイズに合わせて適切な大きさのものを選びます。

(図2)ダイアライザー(一例)

 

血液透析をするために必要不可欠な専用血管カテーテル。ブラッドアクセスとも呼ばれます。内腔が2つのダブルルーメンになっています。

(図3)ブラッドアクセス用カテーテル(一例)

 

血液透析用のカテーテルを設置した例。

(図4)血管カテーテル設置例

 

 

 

腎臓障害とは

腎臓病は大きく「急性腎障害」と「慢性腎臓病」に分かれます。

急性腎障害は数時間~数日単位で急激に進行した腎臓障害で、慢性腎臓病は数ヶ月から数年かけてゆっくり進行し、3ヶ月以上続く腎臓障害のことを言います。

 

急性腎障害の原因には、中毒(ユリ、レーズン、エチレングリコール、薬剤など)、感染症(レプトスピラ症など)、尿路結石、虚血、血栓、DIC(播種性血管内凝固)などがあります。

 

慢性腎臓病は回復することはありませんが、急性腎障害は元通りではないにしても、ある程度回復する可能性があります。

 

透析治療の適応

透析治療は急性腎障害で、静脈点滴など通常の治療に反応しない症例に対して、もっとも治療効果が期待できます。

ただし、血液透析は、一旦血液を体外に出して人工透析機で血液を濾過する必要があるため、一定量の血液が処置中は常に体外に出ています。このため、低血圧や貧血がある症例は(PCV20-25%以下)、透析前に投薬や輸血が必要です。

慢性腎臓障害の急性憎悪の場合も、悪化前の状態までなら改善できることがありますが、その後また悪化して繰り返しの透析が必要となるため、当院では現時点では積極的には実施していません。

 

【血液透析の効果が期待できる状態】

・急性腎障害で、24時間静脈点滴を行なっても治療効果が認められない場合

・薬剤を使用しても、乏尿・無尿の状態が続く場合

・過水和

・透析治療の効果が期待できる薬物や毒物を摂取した場合

 

透析治療に移行するタイミング

透析治療は腎臓の機能を一部代替するだけの治療です。

尿が出ないまま長時間経過し、重度の腎臓障害や他の臓器障害まで生じると、血管カテーテルを挿入するための麻酔がかけられなくなったり、透析では対処できない状態になり、手遅れとなります。

静脈点滴や薬物治療を行なっても24時間改善が見られなかったり、尿が出ない状態が続くのであれば、早期に透析治療への移行が必要です。

 

慢性腎臓病は透析治療の適応になるか?

現時点では、ほぼ対象になりません。

 

慢性腎臓病で透析治療を希望される患者様は、かなり体調が悪かったり、重度の貧血があることが多く、全身麻酔や透析治療に耐えられるか。継続して輸血用の血液を確保できるかといった透析治療以外の問題が多くあります。

また、仮になんとか透析治療を行い、一時的に尿毒症の症状を軽減したとしても、残存腎機能が少ないため、透析治療をやめると治療前の状態に戻ってしまいます。

 

人のように、慢性腎臓病により腎機能がほとんどなくなった状態で、透析だけで生きていくためには、週に数回程度の透析が一生涯必要になります。

動物も、人と同じようにできれば透析だけで生きていくことは可能かもしれませんが、体が小さく、透析用カテーテルの閉塞や費用、貧血など体調の問題があり、慢性腎臓病の動物にずっと透析治療を行うことは現実的ではありません。

 

実際の慢性腎臓病の子の治療は、点滴や投薬、食事など、既存の治療となっています。

 

麻酔は必要?

血液透析・腹膜透析ともに、初回は透析用カテーテルの設置で全身麻酔が必要になります。

透析治療中はほとんどの子は麻酔は必要ありませんが、透析中に、動物が動いてうまく透析が実施できない場合は、鎮静剤を投与することがあります。

 

松原動物病院で血液透析の透析治療を受けているわんちゃん。麻酔も鎮静もなしで、台の上で休んでくれています。

(図5) 実際の透析風景(無麻酔・無鎮静)

 

透析をすれば助かる?

乏尿・無尿に陥り、かつ早急に改善が認められなければ、通常は数日でなくなってしまいます。

透析治療は、治療中は透析器が腎臓の機能を一部補ってくれるので、尿が出ない状況でも、しばらくの間は腎臓の回復を待つための時間稼ぎができます。

透析治療を受けた症例全体の生存率は40~60%と言われており、透析治療後、生存した症例の半数は慢性腎臓病に移行するとされています。

ただし、上記の生存率は全体の確率で、実際は急性腎障害の原因によって生存率は変動します。

 

透析で腎臓は良くなる?

機能の低下した腎臓を透析で治すことはできません。透析はその機能の低下した腎臓を補うものです。

 

治療期間は?

当院で実施している透析治療は、急性腎障害を対象としていますので、まずは1−2週間経過を見ていきます。

透析の間隔は、毎日から数日おきと症例の状態によって変わります。その後少しずつ間隔を伸ばして透析から離脱を目指します。

1−2週間を超えても、自力で排尿ができず、透析からの離脱が見込めない場合は、改めて治療の相談となります。

 

費用は?

透析治療は決して安くはない治療です。

透析を何回行うかによっても異なりますが、初日は透析用カテーテルの設置のため手術が必要ですし、透析の度に消耗品や検査、薬剤の費用がかかります。

また入院も集中看護が必要な場合が多いため、入院費用も通常より高額となります。

詳しくは、お電話にてお問い合わせください。

 

いつでも受け入れ可能?

透析治療は時間と人手が必要となるため、当院では透析の患者様は一度に1件しか受け入れることができません。

また、設備の関係上、松原本院のみで血液透析の実施が可能となっております。

透析を必要な状態になりましたら、まずは一度当院へお電話にてご連絡ください。

 

ご紹介の流れ

血液透析の適応または必要かも知れないと思われる患者様を当院にご紹介の場合は、紹介フォーム(リンクが開きます)にて透析科をご指定ください。紹介フォームにより、診療情報を事前にご提供いただくことで、よりスムーズな医療連携が可能となりますのでご協力をお願いいたします。

 

なお、患者様の来院予約は別途必要です。当日・翌日のご予約をご希望の場合は診療時間内に下記番号までお電話をお願いいたします。2日後以降の日程でも差し支えない場合は、当院初診のご家族様にはこちらの新患様予約申込(リンクが開きます)からご入力いただくようお伝えください。翌診療日に当院よりお電話し新患様の来院予約を確定いたします。

 

患者様が当院に来院歴がある場合は、ご家族様から当院へ直接ご連絡いただくようお伝えください。

 

松原本院 ☎  072-331-3493
大阪府松原市田井城2-1-7

 

天満橋医療センター ☎ 06-6354-4140
大阪府大阪市北区天満3-2-16