はじめに
アレルギー性皮膚炎は日常診療で頻繁に遭遇する疾患ですが、血液検査など特定の検査のみで診断できる疾患ではないため、苦慮することも多いと思われます。
病態
食物アレルギー(food allergy: FA)は食物皮膚有害反応(cutaneous adverse food reaction:CAFR)に含まれる病態の1つであり、免疫学的な反応を伴います。CAFRには免疫学的な反応を含まない食物不耐症なども含まれます。(図1)

図1
犬における食物アレルギーの推定有病率は、掻痒を示す犬の 8%〜62%、アレルギー性皮膚炎の犬のうち 25%〜49%と報告によって大きい差があります。
発症年齢は1歳未満から13歳まで(平均2.9歳)と幅があり、1歳未満と6歳以降に2峰性のピークがあります。6か月齢までに発症した犬は食物アレルギーのうち22%、12か月齢までに発症した犬は38%と報告されていました。
雌雄については報告間でばらつきがみられます。品種については、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバーの4犬種で多いとされています。
臨床症状
食物アレルギーの臨床症状は皮膚症状、消化器症状、その他に分けられます。皮膚症状からはアトピー性皮膚炎との鑑別は不可能ですが、食物アレルギーではこれらの症状が季節に関係なく通年であることが重要です。
1. 皮膚症状
皮膚の痒み(掻痒)が最も一般的な症状 (94%)です。
痒みの部位: 指間(足の先)、顔面、耳、腋窩(脇の下)、腹部、鼠径部、会陰部などが特によく見られます。(図2)
図2:食物アレルギーの好発部位

皮膚の変化として痒みによる掻き壊しにより、紅斑(赤み)、脱毛、唾液による被毛の変色が見られ、慢性化すると苔癬化、色素沈着が生じます。外耳炎は食物アレルギーの犬の約半分(3-69%)に認められ、耳の症状が唯一の症状であることもあります。(図2)
2.消化器症状
犬の食物アレルギーの約19〜27%で消化器症状が認められます。
主な症状は下痢や嘔吐が最も一般的ですが、その他の兆候として軟便、排便回数の増加(1日3回以上)、鼓腸、腹鳴、腹部不快感などが含まれます。
3. その他の症状
稀ではあるが蕁麻疹・血管浮腫、結膜炎や眼脂が認められることもあります。
診断
食物アレルギーの診断のフローを図3に示します。
図3:

アレルギー性皮膚炎に準ずる症状、経過がある症例に対して除去食試験を実施し、その後に食物負荷試験を実施することが唯一信頼性の高い方法です。
除去食試験は、これまでに摂取したことのない食材である「新奇タンパク食」または抗原性を低下させた「加水分解食」を用います。過去の研究の解析に基づくと、除去食試験を開始した犬の85%は5週間以内に改善し、8週間まで延長すれば95%以上の犬で改善しているとされます。
適切な食事の選択のために飼い主様および動物の世話をしている方から、メインとなるフード以外にもトッピングやおやつ、サプリメントやフレーバータイプの薬剤など詳細に聴取する必要があります。(表1)
表1:除去食試験中に注意するべき項目
| 経口投与される製品 |
| フレーバーつきの薬
おやつ:ガム、デンタルスティック、食事中や調理中の人の食べ物 予防目的の製剤:内外寄生虫駆除薬(駆虫薬、ノミ・ダニ予防など) フレーバーつき歯磨き粉 プレ/プロバイオティクス |
| ペットが食べ物を入手してしまう状況 |
| 小さな子どもや来客
同居動物の食事を盗み食い ペットホテルやパピークラス 散歩中に会う講演の友人(他の飼い主など) 飼い主の仕事中に世話をする人(同居家族・シッター等) |
除去食試験を成功させるうえで極めて重要なのは、飼い主様への教育です。
飼い主様が除去食試験の重要性を理解していない場合、「以前のフードと混ぜて給餌している」、「フードは切り替えたがおやつやトッピングはそのまま」など失敗する可能性が高いです。
もう1つ重要なのが食物負荷試験です。
除去食試験で改善が見られたとしても、症状の改善が併用薬の効果、季節変化、環境要因などによるものである可能性を考慮する必要があるからです。除去食試験のみ実施し食物負荷試験をしていない症例を多くみかけますが、フード変更の効果判定のために必ず行うべきです。なお、アトピー性皮膚炎の犬の中には、環境抗原と食物抗原の両方に反応する症例が存在し、食事療法のみでは部分的な改善にとどまる場合があることを念頭に置く必要があります。
食物負荷試験
食物アレルギーの診断は食物負荷試験までがセットであるため、可能な限り実施しなくてはなりません。使用する食事は除去食試験開始前のものを用い、他に疑わしい副食などがある場合は2週間おきに順番に追加します。
食物負荷試験における最近の前向き研究では再発までの中央値:12時間(1.5時間〜10日)となっており、12時間以内に再発が60.9%、3–6時間以内の早期再発が23.9%でした。また、再燃した場合の掻痒の分布は四肢:56.5%、顔:26.1%、体幹部は10%未満でした。この報告ではアナフィラキシーを起こした症例は認められませんでした。
一方、2020年の後ろ向きレビューでは、24時間以内に再燃したのは犬で9%に過ぎませんでした。50%および90%の犬が再燃するまでの期間はそれぞれ5日および14日でした。
その他の検査法
いずれも除去食試験に勝るものではありませんが、食物アレルギーの診断で実施される検査の種類と特徴を表2にまとめたのでご参照ください。いずれも診断ツールとしては不十分と言われている点に注意が必要です。(表2)
表2:アレルギー検査の種類と特徴
| 検査の種類 | 特徴 | 正確性 |
| アレルゲン特異的IgE検査 |
即時型アレルギーに関与するIgEをELISA法にて検出する検査。使⽤する抗原や抗体、プロトコルによる検査間の差が出やすいのが⽋点である。 |
58-87% |
| 皮内反応試験(食物抗原) |
⾷物アレルゲンの特定には信頼性が低い。⾷物の関与のないアトピー性⽪膚炎の⽝でも偽陽性が多く出る傾向がある。 |
63-76% |
| リンパ球増殖試験 |
⾎清検査より精度が⾼く、遅延型反応のアレルゲン特定に役⽴つ。しかし、海外においては技術的に困難で採⾎後の迅速な処理が必要なため、現在は主に研究⽤ツールに留まる。⽇本では商業ベースで実施されている。 |
94% |
| パッチテスト |
陰性的中率が⾮常に⾼い。診断⽤ではなく、除去⾷試験の「原材料の選定」に有⽤とされる。実施には最⼤48時間の接触が必要。 |
81-90% |
| 唾液IgA/IgM | 精度が低く推奨されない | ― |
| 被毛DNA検査 | 科学的妥当性なし | ― |
実際の食物アレルゲンについて
アレルゲンとなる物質はそのほとんどがタンパク質であり、フードやおやつなど日常的に口にするものに含まれるものが由来となることが多いです。食物アレルギーの犬の食物アレルゲンの報告のまとめを表に示します。(表3)
食物アレルゲンは国や地域、時代背景によって変動すると考えられるので注意が必要です。
表3:食物アレルギーにおいて特定された食物アレルゲンの報告のまとめ
| アレルゲン | 割合 |
| 牛肉 | 34.3% |
| 乳製品 | 17% |
| 鶏肉 | 15% |
| 小麦 | 12% |
| ラム | 4.7% |
| 大豆 | 6% |
| コーン | 4.3% |
| 卵 | 3.7% |
| 豚 | 2.3% |
| 魚 | 1.6% |
| 米 | 1.6% |
| その他 | 1.6% |
治療
食物アレルギーの治療の基本はアレルゲンの特定と回避です。
除去食試験の初期段階やアレルゲンの誤食による増悪がある場合はプレドニゾロン、オクラシチニブ、ロキベトマブなどの抗止痒薬を使用します。
ご紹介の流れ
食物アレルギー疑いまたは診断された患者様を当院にご紹介の場合は、紹介フォーム(リンクが開きます)にて皮膚科をご指定ください。紹介フォームにより、診療情報を事前にご提供いただくことで、よりスムーズな医療連携が可能となりますのでご協力をお願いいたします。
なお、患者様の来院予約は別途必要です。当日・翌日のご予約をご希望の場合は診療時間内に下記番号までお電話をお願いいたします。2日後以降の日程でも差し支えない場合は、当院初診のご家族様にはこちらの新患様予約申込(リンクが開きます)からご入力いただくようお伝えください。翌診療日に当院よりお電話し新患様の来院予約を確定いたします。
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