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血液透析

血液透析

「血液透析療法」とは、腎代替療法の1つです。
本来、老廃物・毒素の排泄やミネラルのバランス調節、ホルモン分泌などを行う腎臓の機能のうち、老廃物・毒素除去を機械で代替します。
人医療では腎臓病に対して日常的に血液透析療法が行われています。動物にも同じような治療が求められ、実施されるようになってきました。腎臓病は大きく「急性腎障害(急性腎不全)」と「慢性腎臓病(慢性腎不全)」に分かれます。急性腎障害は数時間~数日単位で急激に進行した腎臓のダメージのことで、慢性腎臓病はもっとゆっくり(厳密には3ヶ月以上で)進行した腎臓のダメージのことを言います。
ただ、動物においては人とまったく同じように透析治療を行うことは出来ません。体も小さく、言葉も話せないので、状態をしっかり管理しながら治療をする必要もあります。それでも透析治療をすることで、腎臓病の中でも「急性腎障害」であれば、その後回復してくれる可能性があります。
急性腎障害で、静脈点滴治療をしても状態が回復してこないときには、血液透析治療を選択肢の1つとして考えてみて下さい。慢性腎障害では、現在のところ血液透析治療でも回復は難しく、前向きな選択肢とはなっていません。
透析治療で回復してくれる可能性があるのかどうかも含めて、まずはご連絡をいただくようお願いいたします。



急性腎障害とは?

さまざまな原因で腎機能が障害された状態のうち、急性に発症したものをいいます。
早ければ数時間で進行するものもあります。原因には、中毒(ユリ、レーズン、不凍液・保冷剤などに含まれるエチレングリコール、薬剤など)、感染症(レプトスピラ症など)、結石、虚血(血液が十分通わなくなる)、血栓、DIC(播種性血管内凝固)などがあります。
3ヶ月以上続く腎臓の障害、とされる慢性腎臓病(慢性腎不全)とは異なります。慢性腎臓病は進行しても回復することはありませんが、急性腎障害は元通りではないにしても、ある程度回復する可能性があります。

慢性腎臓病は透析治療の対象になるのか?

現実的には対象にはほとんどなりません。
慢性腎臓病の急性増悪期などでは、仮に透析治療で一時的に尿毒症の症状を軽減したとしても残存腎機能がわずかであるため、透析から離脱できない「透析依存」と呼ばれる状況に陥る可能性が高いです。残念ながら元の慢性腎臓病の状態よりも良い状態には改善してくれません。
また、脱水や貧血を起こしている場合が多く、透析治療に耐えうるかどうかも問題となっています。容易に腎移植が出来ない日本においては、透析依存状態では治療費の問題や体力の問題から結局のところ継続できなくなってしまう可能性が高いと考えられます。現在のところ血清クレアチニン値が5mg/dlよりも低い場合にも透析治療の利点よりリスクがまさってしまうと判断されます。3)

透析治療が有効な状態とは?

透析をすれば助かるのか?

乏尿にまで陥ると、何もしなければ数日で死亡してしまうと言われています。

急性腎障害の犬の生存確率は40~47%、猫の生存確率は50%1)とされ、透析治療を生存した犬と猫のうち、半分は正常腎機能まで回復、もう半分は透析を中断できても腎機能不全が残るとされます。2)また、急性腎障害の原因によっても生存率は変動します。2)

ただ、一度壊れた腎臓を元に戻す訳ではないので腎不全が「治る」のではありません。

透析治療の対象は?

費用は安い?

費用はケースバイケースです。

透析治療が適切に出来ているのか、透析中にも繰り返し測定が必要な項目も多く(尿素窒素、電解質、凝固状態など)、透析治療に使用するダイアライザーも1回ごとに新しいものに交換する必要があるため、コストは決して安くない治療です。また、後述するように入院での集中治療が必要であり、初日に検査・ブラッドアクセス(後述)確保のための手術などを行うことも費用に関わっています。

費用に関しましても、ご連絡をいただければより具体的にお答え出来るかと思います。

[ダイアライザー(一例)]

入院は必要? 透析の頻度や期間はどれくらい?

はじめ1~2週間程度は入院での集中治療が必要です。
透析の頻度は尿が出るまでは毎日、透析治療の間隔を空けても体が耐えられるなら、週に3回(1日おき)などに減らし、回復すれば透析治療から離脱します。
数回で離脱できる場合もありますが、透析治療を続けるかどうかを決定するのに、2週間は経過を見なくてはならない場合もあります。

麻酔は必要?

最初に一度全身麻酔下で首の静脈へのカテーテルの設置が必要です。

「ブラッドアクセス」とも呼ばれ、確実なブラッドアクセスが確保できれば、その後透析治療は麻酔をかけなくても実施出来ます。動物が激しく暴れてしまう場合は、必要に応じて鎮静薬などを使用する可能性もありますが基本的に全身麻酔ではありません。

透析治療を考えている場合は、来院される前にまずご連絡をいただきますようお願いいたします。

参考文献

1) Kidney Diseases and Renal Replacement Therapies, Veterinary Clinics of North America:Small Animal Practice, Mark J. Acierno et al., Saunders Elsevier, 2011
2) JAHA主催セミナー「泌尿器病学」, Catherine Langston, Japan Animal Hospital Association, 2013
3) Veterinary Dialysis Handbook, Catherine Langston, Nephrology Knowledge, 2014

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